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大阪高等裁判所 昭和61年(く)47号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、弁護人藤原猛爾作成の抗告申立書記載のとおりであつて、要するに、被告人については、その経営する防水加工業の営業の継続を確保することが必要であつて、裁量により再保釈を許可すべきものであるのに、原決定が保釈請求を却下したのは不当であるから、原決定を取り消したうえ保釈を許可する旨の裁判を求める、というのである。

そこで、所論にかんがみ一件記録を調査して考察し、次のとおり判断する。

(一)  被告人は、昭和六一年四月一〇日大津地方裁判所において、道路交通法違反(酒酔い運転)の罪により懲役三月に処せられ保釈が失効して同日収監されたこと及び右同日弁護人からいわゆる再保釈の請求がなされたけれども、原裁判所は、即日、被告人については刑事訴訟法三四四条に該当しかつ裁量保釈も相当でないとして右請求を却下したこと、以上の事実が明らかである。

(二) そこで、裁量保釈の当否についてみると、本件道路交通法違反の事実は、夕食時ビール約一本を飲んだ三時間余り後、右飲酒の影響の残存していることを自覚しながら自動車を運転して食事に出かけて焼肉屋でビール二本弱、スナックで水割り三杯を飲んだうえ帰途自動車を運転したというもので、警察官に停止を求められた時には蛇行運転の状態であつたし、一旦停止した後逃走を図り、結局下車した時も歩行もままならず、警察官に悪態をつき飲酒検知を拒否したというもので、それ自体酒酔い運転の事案としては犯状悪質であるのに加え、被告人は、過去において昭和四九年から同五七年の間に四回にわたつて道路交通法違反(無免許運転、酒酔い運転等)の罪でいずれも懲役三月に処せられ(うち最初の分のみ刑の執行が猶予されていたがのちに取り消され、また、最後の分は本件につき累犯前科の関係にある)、更に、昭和五七年タイ国において国際運転免許を取得後も酒気帯び運転等で四回罰金刑に処せられたという前科を有するものであつて、本件について有罪と認定された場合には、罰金刑の選択は望むべくもなく、また、執行猶予は右前科との関係で法律上付し得ないのであるから、前記一審判決の言い渡しがあつたことによつて刑執行の確保を期すべき要請は極めて強くなつているというべきところ、被告人は、タイ国人を妻とし、前記国際運転免許の更新のために毎年のように同国へ旅行しているといつた事情もあるので、被告人の拘束がその経営する防水加工業に一定の不利益を及ぼすであろうこと(所論は、右営業の継続を確保するためには被告人の保釈が不可欠である旨詳説するのであるが、右防水加工業の業態にてらして、その詳説するところは必ずしもこれをそのまま首肯し得るものでない)、その他諸般の事情を考慮しても、被告人に保釈を許可することは相当でないから被告人に対する保釈請求を却下した原決定の判断は相当であつて原決定には所論のような不当の点はなく、論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法四二六条一項により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官山中孝茂 裁判官高橋通延 裁判官島 敏男)

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